2018.6.2

ARAKAWA DESIGN CREATIVE JAM

ARCHIVE #15

2018年6月2日のADCJ第15回は、雨が少し恋しくなる映画をテーマに「傍らに映画を」を放送しました。星井さん、中村さんと共に、雨と映画の魅力を語り合いました。

MC  時刻は午後7時になりました。毎月第1、第3土曜日は荒川デザイン・クリエイティブジャムをお送りしております。今週は第1土曜日になりますので、皆様お待ちかねの「傍らに映画を」お送りいたしたいと思います。この番組は株式会社アンノウの提供でお送りいたします。ということで、荒川さん!始まりました!
荒川  こんばんは。荒川デザインの荒川サトシです。よろしくお願いしまーす。星井さんよろしくお願いします。
星井  宇都宮メディアアーツの星井です。よろしくお願いします。
荒川  番組の説明をしますね。荒川デザイン・クリエイティブジャムでは、「クリエイティブを声で届ける」をテーマに毎回放送しています。様々な表現をされているゲストをお呼びするゲストトーク回と、「観た人もまた観たくなる」をテーマに、映画作品を独自の視点で語る「傍らに映画を」の2つの企画で毎月2回(第1・第3土曜日)放送しています。今回は第1土曜日ということで、「傍らに映画を」の第3回を放送したいな、と思います。
MC  今回で3回目ということは、今までで4本(映画を)お届けしてきたんですね。私も前回の「イエスマン」(観まして)これよかったですねー。楽しかったです!面白かった。
荒川  よかった!何か(映画を)観てチャレンジしたこととかありましたか?
MC  いや、それは特にないんですけど…。(苦笑)
星井  (笑)
荒川  ないんですか!?
MC  観ることを楽しみました。
星井  観ることを楽しんだんですよね!
MC  一回ツタヤに行ったんですが、2本あって、2本とも貸出し中だったの。これはもしかしたらこの番組の影響かな?と思って…?
星井  そうだと嬉しいですよね。
MC  それで借りて、返却期限ギリギリで観て、とっても楽しくて…。特に白髪のかわいいおばあちゃまがとっても楽しかったです。(笑)

荒川  毎回冒頭でお願いしてるんですが、メッセージが欲しいなーと思って…。皆さんメッセージが読まれるから恥ずかしくって(メッセージが)来ないのかなぁ。
MC  それはたぶんないと思います。
荒川  毎回メッセージが来ない理由を考えてるんですけど…。メッセージをお待ちしています。メールで773@miyaradi.comか、あとはミヤラジアプリのほうから直接メッセージを送れます。ラジオネームがつけれるので、気軽にお願いします。
MC  じゃあ何か(リスナーに)質問を投げかけるのはどうですか?
荒川  あ、そうですね。じゃあ、今まで4本紹介したと思うんですけど、これをきっかけに「観たよ」とかっていう話があれば(メッセージをお願いします)。
星井  聴いてる前提がすごいですけど、(その質問)大丈夫ですか?
荒川  ちょっと押し付けがましいか…。そうか…。
星井  今回初めて聴いていただいてる方もいらっしゃると思いますし。聴いてらっしゃらなかった方、今回ラジオを聴くのが初めての方は、オススメの映画とかでいいですよ。(笑)

荒川  今日のテーマの話をします。梅雨入り直前ということで、雨が少し恋しくなる映画2本をピックアップしました。どうしても梅雨の時期って嫌な感じじゃないですか。ジメジメして「また雨だなぁ、晴れないかなぁ」って雨がどっちかというとネガティブな存在に扱われがちなんですけど、今回紹介する2本を観ると、雨が恋しくなって「今日も雨降らないかな」って、素敵な…。雨が降った時に「気持ちがいいな」って心が踊るような雨に変わるような映画を2本ピックアップしました。

荒川  一作品目は、「言の葉の庭」という作品です。
星井  まず、監督は「君の名は」の新海誠さんになっております。「言の葉の庭」に関してなんですが、雨の日にだけ2人の男女が出会うっていう映画です。高校生のタカオという少年が、年上の女性ユキノさんにただ雨の日に新宿御苑の東屋で逢うというお話です。スマートフォンがあるはずなのに、天気を見て「今日は会える」とか「今日は会えない」とか、この梅雨の時期だからこそ描かれる素敵なラブストーリーになっています。「言の葉の庭」はストーリーももちろん、絵もとても美しいんです。ジブリみたいに書き込んでるのではなく、また新海誠さんらしさのある絵のタッチで、本当に新宿御苑に行きたくなるなぁっていうところがまたオススメのポイントになります。「雨ってこんなに美しく描くんだ」ってところもまたポイントです。
荒川  いろんな雨が降るんですけど、映画のキャッチコピーがあって「愛よりも昔 孤悲(こい)の物語」。恋を孤独の「孤」に「悲」しいって書くんですよ。このキャッチコピーもいいですよね。恋が成就して恋愛状態になって…っていう手前の話で、雨っていうのがいろんなモチーフに使われるんですよ。出逢うきっかけの雨もそうですし、周りを遮断するカーテンとしての雨、その東屋で2人きりになるわけです。周りが雨降っていてそこだけ特別な空間になったり。あとは、気持ちが高ぶったり不安になったりっていう感情が雨で表現されてるっていうところも、(映画を)観ていてセリフのやり取りもありますが、感情自体が情景で表現されているところが、観ていてすごく気持ちがいいというか、スーッと入ってきます。言葉は介してないけれども、雨とかの情景で「こういう気持ちなのかな」タカオは…とか。

星井  そうですね、情景描写が、結構風景が描かれていることが多くて、ただ、この映画が45分くらいの短編なんです。なので、とても短くてあっさりした映画なのかなーと思います。観やすいですね、すごく。「ちょっと雨の日だから気が晴れないなー」っていう時に観てもらえると一番いいかなーと思います。
荒川  よく、(2時間とかの)長い映画を観て「あっという間だった」ってなるじゃないですか。この映画は1時間ない映画なんですけど、逆にすごくゆったり感じます。「あれ、45分なんだ」っていう感じがあって、面白いんですよ。1時間半くらいの満足感がありますよね?
星井  あります、あります。
荒川  でも、実際は45分なんで、観てる時の頭の中の感情の変化というか、捉え方が複雑だったり濃かったりするんだと思うんです。なので、時間がしっかり捉えられる。何も考えなくてもいい映画はあっという間に終わっちゃうんですけど、これはそうじゃない。「ほんとにいい小説をじっくり読んだ」みたいな感じになります。
MC  今のお二人の話を聞いてると、絵から…情景描写が主人公の心の描写でもあるわけでしょ?そういう部分が、観ている人はとっても感じられて、考えさせられるって感じですか?そこから受けるものの感じが、量的にもすごい多い感じがしますね。それが(映画の)時間が短くてもしっかり観たという感じになるんですかね?
星井  ただ、好き同士が恋愛しているんじゃなくて、主人公のタカオとユキノにはそれぞれ悩みがあって、ユキノに関しては高校教師をやってたんです。けれど、ストレスで味覚障害になって、ビールとチョコレートしか味が分からなくなってしまって、初めて逢った時も、東屋でタカオはビールを飲みながらチョコレートを食べてるユキノを見て「え?」ってなるんです。朝からなんですよ。で、ユキノは後々考えると、仕事に行きたくても行けない女性だったんです。そして同じ高校の教師だったんです。そこが後々キーワードになってきます。
荒川  最初は分からない。気づかないんです。
星井  この映画のいいところは、日常の忙しさをどうやって自分で解決していくかのヒントがちょっとずつ出てきて、そんなにせかせかしなくても、ちょっとズル休みしてもいいんじゃないか、って寄り添ってくれる映画なのかなと思います。
荒川  場所が新宿御苑なので、日本で一番人がゴミゴミしているんじゃないか…という場所で、新宿御苑の東屋っていう、隔離されたというかちょっと距離のある落ち着いた場所で、2人が出逢うっていうのもいいですね。

MC  新海誠監督の「君の名は」を観てるので、絵のタッチとか描写が素晴らしいっていうのがインプットされてるじゃないですか。だから、今話しを伺っていると、東屋があって、男女がちょっと離れて掛けてて(座って)、そこに雨が線を描いたようにザーッと降ってるような、隔離されていて。あんなに広い新宿御苑なんだけれど、ここだけの2人の世界が確立されているっていうのが(話を聞いていると)見えるよ。2人の解説を聞いて!
荒川  まさにそうですよ!(中村さんが映画を)観たかの如くの表現ですね!
MC  「言の葉の庭」でしょ?今日この映画、初めて聞いたんです。だから観てないんですよ。でもね、(解説を聞いて)状況が浮かんだね!
荒川  すばらしい!
MC  でも45分でこうやって満足感を与えられるってすごいですね。
星井  すごいですね。一番いいのは、雨の日にしか会えないと2人が分かっていながら、天気を毎朝見ていくシーンですね。「今日晴れだから居ないかなー」とか、お互いソワソワして…。

荒川  梅雨の時期にかぶるんで、「今日も雨だから会える」。でも梅雨の時期が過ぎると雨の頻度が減るので会えない。
MC  雨の日にしか会えないっていう(設定)のは、誰が決めたの?
星井  それは2人にしか分からないというか、個人個人に理由があるんですけど…。ただ、最初の出だしが、雨の日は居るんですね。そこで会話をしているので、雨の日にはお互い「行かなきゃ」とか、「行けば会える」とか、暗黙の了解があるんです。
荒川  はっきりとは言ってない。「雨降ったら会おうね」とか無粋な事は全然言っていないんですけどね。
星井  全部グレーゾーンな事をやっていて、最後まとめる時にお互いが「そうじゃなかったかー」っていうシーンがあります。
荒川  非常に日本人的な…というか奥ゆかしさがあります。
星井  素敵ですよね。スマホで一行「会いたい」「会えるよ」の世の中なのに、雨の日っていうポイントを使わないと会えないっていう…。
荒川  雨っていう(自然のことなので)コントロールできない状況じゃないですか。
MC  じゃあ梅雨の時期は毎日のように会えるわけですか?
荒川  そう。会えるんですけど、雨の日に学校に行けない理由とかは変わらない。そこは改善していないので、会えるし、会って話もするし、話をしなかったりもするんですけど、本質的なところはそれぞれお互い解決するわけではないんです。なので(映画を)観ていると、そのへんがソワソワするんです。2人で会えてていいなぁとは思うんですけど、問題解決にはなっていないというところで、どうなるんだろう…っていうのが、この話の楽しい興味深いところです。

MC  2人が会ってどんな話をするんですか?
星井  タカオは靴職人になりたい高校生なんです。だから日本にいるよりも海外で学んだほうがいいのかなーとか思っていて、あまり(会って)話すという言葉よりは、お互いが好きなことをやっていて…、タカオは靴の絵を描いてたり、ユキノはビールとチョコを飲んだり食べたり、佇んでいるだけ。会話をあんまりしている印象はないです。だけど、お互い気にかけてる言葉をする。目線で会話をしてる感じです。中々今(の時代)ではない感じですよね。みんな下むいてるし…。それが直訳で書いてて面白いなぁと思います。ダイレクトな恋愛映画でなく、それをちょっと薄めるように、描写の雨のシーンが多くて、観ていて重くないなっていうのがいいですね。観やすいです。
荒川  メッセージがあって全面に出ていて押し付けようっていう感じは全くない(映画)です。悩み自体もすごく日常的なもので、特別なものではなくて、「(そういう悩み)あるよね」って思えるような、ボタンの掛け違いのような…。
星井  新海誠さんの上手なところは、「(どこにでも)いそうな人間を描く」っていうところです。社会に押し潰れそうな社会人と、これから未来が心配な高校生の心の描写がとても上手くて、ちゃんと(ストーリーが)練ってあるなぁって。
荒川  ちゃんとリサーチもされてるらしいんです。この作品で言うと、タカオとユキノさんの状況っていうのが、監督自身の若い高校生の多感な時期、ユキノさんの20代半ばくらいのちょうど仕事で岐路に立った時期があったらしんですけど、その時の自分を投影してるらしいですよ。
星井  あと、「君の名は」を観ている方は気づくかもしれないんですが、国語の授業が「君の名は」にあったと思うんですけど、あれ、ユキノ先生なんですよ。この映画に出てくるユキノさんが「君の名は」に出てる。
MC  そうなんですか?
星井  それが楽しいです。
荒川  エンドロールでも、「ユキちゃん先生」だっけ?名前がフルネームじゃない。
星井  そういうところも新海誠さんファンは嬉しかったりするところでもあります。
荒川  アニメでそういうのがあるのはいいですよね。手塚治虫さんの作品だと、スターシステムって言って、いろんな作品にヒゲのでっかいキャラクターが出てきたり、そういうのありますよね?それの新海誠版という感じです。(キャラクターが別の映画にも)共通して同じ役で出てくる。この「言の葉の庭」を観たあとに「君の名は」を観ると「また引越したのか?」とか思ったり…。
星井  元々岐阜が地元かもしれないですよ。
荒川  そうか…。(笑)
星井  何か雨の日にその人を思い出すっていう仕草が可愛らしいですよね。
荒川  天気で(人を)思い出すってロマンチックですよね。
MC  意外とあるかもしれませんね。
荒川  経験ありますか?
MC  微かにね…。もう本当に昔…。
荒川  雷がなったら◯◯さんを思い出すとか…。
星井  雷はないでしょ。(笑)
MC  でも、音楽とか天気で(誰かを)思い出すっていうのはあるかもしれないですね。
星井  ドライブデートでかかってる音楽で思い出すとかあるかもしれないですもんね。
MC  そうですね、その時が例えば本当に晴れた日で、太陽が肌に当たる痛さを感じるような…そんなふうな思い出もありますもんね。
星井  素敵ですねー。
荒川  いつ頃の?
MC  若かれし頃の…。(笑)あとね、僕、新宿御苑が好きなんですよ。
星井  そうなんですか?!
MC  東京にずっといましたから。下町の荒川っていうところに住んでたんだけど、高校が荻窪だったんですよ。なので途中下車して新宿でふらっとしたりしていたので、その時の御苑の(風景が)浮かんできました。
荒川  じゃあ、この映画観たら色々思い出しちゃうかもしれないですよ。
MC  その、新海監督の描写の(新宿)御苑が見てみたいですね。
荒川  素晴らしいですよ。(新海監督の)光の描写は元々素晴らしいんですけど、コントラストが高かったり。この「言の葉の庭」で言うと、影のところがちょっと緑っぽくなってるんですよ。普通は陰って黒だったり色がないんですけど、これは意図的に周りに緑が多かったりするので、緑色の影が顔にかかったりするんです。それは、意図的に影に色をつけているって言ってました。
MC  確かに色っていうのは、反射している色とかありますもんね。へぇー。ちょっとこれ(この映画)チャレンジしてみたい(観てみたい)ですね。
荒川  ぜひ!(笑)チャレンジという程でもないと思うんですけど、観てもらいたいです。
星井  毎回紹介するのは、中村さんに観てもらいたい映画ですよね。
MC  ありがとうございます。でも(そうすると)毎回世代が決まっちゃうじゃないですか?
星井  そんな事はないですよ。毎日仕事を頑張ってる方々に。
荒川  そうです!基本的には元気になってもらうエールみたいな感じで映画を紹介してるんで、映画を観た後にホッとしたり、元気になったり、心がちょっとあったかくなったり…っていうのを基本的なテーマにしてるんで。
MC  それはいいねー。ぜひこれは観てみたいと思います。

荒川  雨の描写とかも素晴らしいんですが、新海監督の真骨頂というか「じらし」みたいな表現、じらされるんですよ。中々形にならないというか…。中々会えなかったり、中々好きって言わないとか、こっちがもどかしい感じです。(この作品にもあって)タカオが靴職人なんで、ユキノさんの靴を作るのに、足のサイズを測るシーンがあるんです。言葉を一言も介さないんですけど。ユキノさんが椅子の上に足をのせて、タカオがただ黙って採寸、スケッチをするんです。このシーンが非常に艶っぽくて、日本の昔の映画のシーンみたいな…。足のサイズの輪郭を描いてるだけなんですけど。女性的にみてあのシーンはどうですか?
星井  いや、あれは男女関係なくドキドキすると思います。清純なのに。
荒川  あれはすごくエポックメイキングというか、ストレートにキスをするとかハグをするっていうのは分かりやすいし表現もできるんですけど、そうじゃない表現で、それ以上の膨よかな表現を映像でするっていうのが、妄想力がすごいなって。
MC  今、話を聞いていて、昔の木の桶に水をはって、女性の裸足の足を洗ってあげるような、そんな雰囲気を感じました。
星井  「目に見えないけど、そこには愛があるな」っていう感じですね。この映画は、こういう恋愛してみたいなーっていう甘酸っぱさがぎゅっとしてるので、新海さんはそういうの描くのが上手だなって思いますよね。甘酸っぱい恋愛がこんな糧になるんだー…って。
荒川  いいですよね。もちろん、ラストに向かっての盛り上がり方、破裂寸前みたいな気持ちも、すごく濃いんですよ。そこに、「rain」という名曲がかかってくるんです。今日は(ラジオで)かけないですけど。(笑)
MC  え!うそ?今日はかけないの?
星井  秦基博さんの歌っている「rain」ていう曲があるんですけど、新海さんもそれをベースに(映画を)作ったんじゃないかって言われるくらい劇中でかかってる曲なんです。本当はこの映画って言えば「rain」なんですけど…、今日は違う曲をピックアップしてきました。
MC  だって、荒川さんが意味をちゃんと考えて、曲を選曲してくれてるんでしょ?
荒川  そうです。
星井  それではaikoさんで「4月の雨」です。

MC  時刻は午後7時33分をまわっております。毎月第1土曜日は荒川デザイン・クリエイティブジャム「傍らに映画を」お送りしております。只今の曲は、aikoで「4月の雨」をお送りしました。この番組は、新たに人とモノと文化のポータルポイント事業を展開するロジスティクスカンパニー、株式会社アンノウの提供でお送りいたします。
荒川  ありがとうございます。aikoの「4月の雨」なんですけど、雨がテーマの曲なので選んだというのもあるんですが、歌詞の中で「遠くまで届いているだろうか 時々不安になるけれど あの日めくったページの先には あふれる程書き殴った想い」「あなたもどこかで同じ時を生きている」とか、2人の距離感というのが、シンパシーというかすごく共感するなぁと思って。映画の中でも(距離感が)べったりという感じではないので、それを表現している曲だなと思ってピックアップしました。もちろん「rain」も名テーマとして素晴らしくて揺るがないんですけど、それを補完するような曲として聞いていただけると深みが増すんじゃないかな、と思って選びました。
MC  ありがとうございます。

荒川  2本目の映画にいきたいと思います。2本目は「おおかみこどもの雨と雪」という映画です。
星井  はい。2本目もアニメということなんですが、「サマーウォーズ」などで有名な細田守監督の作品です。「おおかみこどもの雨と雪」は、一人の女性が「おおかみおとこ」と恋愛をして、子どもを2人授かり、どうやって育てていくかっていうヒューマンドラマです。本当に異世界なのか現実世界なのかっいうところの描写がすごく、子育てだったり人間関係が色濃く描いてあって、勉強になるなっていう作品です。そして、雨のシーンがここでも出てくるんです。それがすごくいいので、選ばせてもらいました。
荒川  テーマは、子育てとか親子とかあるんですけど、キャッチコピーが「私が好きになった人は、”おおかみおとこ”でした」。シンプルなんですけど、まず「おおかみおとこ」が存在しているということ自体はファンタジー、フィクションなんですよ、そもそも。でも、それを肯定して好きになって、夫になって…というところが、フィクションなんですけど、それ以外のところがすごく現実味があって、リアリティーがあってすごく刺さるんです。普通の人間同士の夫婦間の話で、子どもがいて子育て大変だ…っていう話だと、そんなに(心に)刺さらないかもしれないんですけど、「おおかみおとこ」をカップリングしたアイディア、切り口がすごいなーと、まず思いました。

星井  さっきの「言の葉の庭」は45分の映画だったんですけど、この映画は2時間くらいあります。なので、内容としてはちょっと重たいかもしれないんですが、この映画が面白いのは、人間関係をうまく描写していたり、「子育てってお母さんこんなに大変なんだな」って…。おんぶして料理して、料理してたら違う子が泣いて…そういったところの精神的にアップアップしている時って、他の人から見たらなんて声を掛けたらいいんだろう…とか、自分も女性なので、子どもができたらどうしたらいいんだろう…って。それがアニメなので、色んな人に子育ての大変さとかを理解してもらえる、理解しようとしてくれるきっかけが得られる、そういった意味では、女性としてはいい意味でありがたい映画なのかなぁと思います。
荒川  男性側から見ても、共感できます。家庭を守るために外で一生懸命働くわけですよ。美味しいものを食べさせたいとか。「おおかみおとこ」なんですけど、仕事は外でしていて…。
星井  ちょっと日常的に「疲れたな」って思った時に見てほしいですね。「イエスマン」の映画は気分を高めてくれるんですが、「おおかみおとこの雨と雪」は寄り添ってくれて「そのままでいいんだ」って思えるんです。おおかみっていう特性を自分の中で受け入れて、どうやって生きていくのか。それぞれが宇宙人みたいなところがあるので色んな惑星から来たって思ったら、こんな事もするよな…って(他人が違うことを)甘くゆるく考えられる。人ってそんなものでいいんだなって。
荒川  (映画を観ていて)受け入れる、特異性を受け入れてくれるんだなぁって。中村さんも映画を観たので覚えてるかもしれないんですが、映画の最初のほうのシーンで「おおかみおとこ」と主人公の花がセックスをするシーンがあるんです。唐突に気づいたらそういうことをしてる、しかも「おおかみおとこ」は人間の姿にもなれるんですけど、「おおかみおとこ」の姿でそういう行為をするシーンが、ごまかさずに描かれてるってところが重要かなと。桃太郎の話で言えば、桃が川から流れてきて、桃を割ったら赤ちゃんがいるっていうのは、改編してるわけです。リアルじゃない表現。桃が流れてきて、桃を食べたおじいちゃんとおばあちゃんが若返って、盛り上がって子どもができるわけなんです。それが現実なんです。それを昔話的に表現を変えちゃったので、重要なところがすっぽぬけちゃってる。桃から産まれたの?…って。それをちゃんと言ってるところがアニメーションですけど、いやらしくない表現になってるのと、アニメだからこそ「おおかみおとこ」と人間がそういう行為をするっていう表現がすごく美しく表現されててすごいなと思いました。実写じゃちょっと難しいんじゃないかなって思います。
星井  アニメっていうと内容がないとか、結構偏見があったりするのが、今は少しずつ無くなってるんですけど、一つの映画として、この作品は評価は高いんじゃないかと思います。ジブリとかディズニーとか、子どもに観せる映画ってあると思うんですけど、これもその一つに入ってくるんじゃないかと思います。「自分で決断しないと行けない時がくるんだよ」って。
MC  そういうシーンありますねー。
荒川  (主人公の子供の)雪ちゃんと雨くんが、まさに人間界の社会性と自然の掟、それぞれ学んで体感して進化しないと、受け入れないといけないというところを、子どもたちが体現していて、観ていて成長みたいなところがすごく分かりやすくなっているなーと思います。
星井  勝手に(おおかみの)耳を出しちゃう雪ちゃんが、だんだん耳を出さなくなって、一人の女性として生きていく姿が、「あ、恋してるな」って、(観ている)こっちが親心になっていく…。(笑)
荒川  自然と(人間の社会から見ての)不自然の関係性みたいなところをアニメーションで表現してるのかな、と色々考えさせられます。

星井  雨というテーマで(この映画を)選んだんですが、雨のシーンが結構、最後の方に出てきて、それがクライマックスに向けて盛り上がっていくのかなと。嵐に近い、台風みたいな。
荒川  本当に避難するくらいの嵐があって、リアルでもありますが、雨が上がったあとの空気が澄んで、光が差してきて、浄化されたような空気になりますけど、まさにそういうシーンが最後に入ってきて、観てる人の気持ちも、「なるほど」って、スッと納得する感じになります。それまでは、雨のネガティブな不安な表現がズキズキと刺さるんですけど、最後の雨が上がるシーンはまさに心を表現してると思います。
それじゃあ曲行きますか。
星井  はい。星野源さんで「Continues」

MC  時刻は午後7時49分をまわりました。荒川デザイン・クリエイティブジャム「傍らに映画を」お送りしております。只今の曲は星野源で「Continues」でした。この番組は、新たに人とモノと文化のポータルポイント事業を展開していきますロジスティクスカンパニー、株式会社アンノウの提供でお送りしております。
荒川  ありがとうございます。気づけば、エンディングテーマが流れてきましたね。「Continues」の歌詞でいうと「命は続く」「命は伝う 君の思いを繋ぐ」とか、そういう親子の伝承というか思いが繋がるっていうキーワードが入っていたので、この曲をピックアップさせていただきました。
MC  決して、星野源だからという理由でこの曲を選んだ訳ではなく、ちゃんと意味があるんですね。(笑)
星井  意味があります。(笑)
荒川  今回は、aikoさんと星野源さんの曲をピックアップしたよ、っていうところを深読みしてもらえると面白いかなーと思います。
MC  すみません、ぜんっぜんわかりません。(苦笑)
星井・荒川  (笑)
荒川  裏テーマがちょっと入ってますので、ファンは「あ!」って。2人のお名前入れてググって(Googleで検索して)もらうと分かるかもしれません。

荒川  次回の告知をしますね。次回は6月16日 19時から。ゲストは山口範友樹さん。多摩美術大学の同期なんですけど、ワンピースとかのキャラクターのフィギュアの元となる形をつくってる原型師という仕事をされてる方で、国内の(大会の)賞とかも総なめにして、今年ニューヨークでもチャンピオンになって帰ってきたという、屈指の原型師の方が来ていただけるということで。フィギュアも持ってきてもらえると、見ながら話せたらいいな、と思ってますけど。ぜひ、中村さんも楽しみにしていてください。
MC  フィギュアは(ラジオで)言葉で伝えないとダメですね。
星井  難易度高めですね。
荒川  彼(山口さん)もラジオとかメディアにも出ている方なので、言葉での表現はできる方だと思います。今夜も荒川デザイン・クリエイティブジャム第15回をお聴きいただいてありがとうございます。中村さん、星井さん今夜もありがとうございました。
MC・星井  ありがとうございました。